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陸のそよ風、沖の牙。あなたの知らない海の常識、こっそり教えます。これを知れば、あなたの湘南散歩がもっと深く、もっと面白くなること間違いなし!
完璧な湘南日和。のはずが…?
湘南を愛する皆さんなら、きっと分かってくれますよね。窓を開けた瞬間に飛び込んでくる、あの潮の香り。遠くに聞こえる「ザザーン…」という波のBGM。これだけで「ああ、湘南にいてよかった」って思える、あの日々のこと。
その日も、まさにそんな“完璧な朝”でした。鵠沼の自宅から眺める空は、雲ひとつない湘南ブルー。海は太陽の光を浴びて、キラキラと宝石みたいに輝いてる。夏のギラギラした日差しとは違う、秋の柔らかい光が最高に気持ちいい!
「こんな日に家にいるなんて、もったいないお化けが出るぞ!」
僕は迷わずビーチサンダルをつっかけ、お気に入りの散歩コース、江の島へと向かいました。海岸ではサーファーたちが気持ちよさそうに波に乗り、犬は嬉しそうに砂浜を駆け回ってる。すれ違う人たちの表情も、みんなリラックスしていて穏やか。僕の頬を撫でる風も、文句のつけようがないくらい優しいそよ風です。
「こりゃ、絶好の行楽日和だ!」
弁天橋から見える富士山もくっきり。ヨットハーバーの旗も、なんだか楽しげにはためいています。このまま江の島の裏側、岩屋まで遊覧船で行ったら最高だろうな、なんて考えながら「べんてん丸」の乗り場へ向かいました。
「今日は休みさ」ベテラン船頭のまさかの一言
乗り場は、僕と同じことを考えた人たちで大にぎわい。家族連れやカップルが、わくわくした顔で船を待っています。その人だかりの中に、僕は見知った顔を見つけました。
日に焼けた顔に、深いシワを刻んだ笑顔がトレードマークの知人。この道何十年という、江の島の漁師さんです。彼は漁の合間に、この遊覧船の船頭もしている、いわば“海のプロ中のプロ”。僕は駆け寄って、陽気に声をかけました。
「こんにちは!すごい人ですね。今日は風もなくて、最高の遊覧船日和じゃないですか!大忙しですね!」
ところが、彼は僕の満面の笑みとは裏腹に、少し困ったような顔で空を見上げました。そして、水平線をすっと見つめた後、こう言ったんです。
「いやぁ、それがダメなんだよ。今日はもう店じまい。休みさ」
「ええっ!?」僕は思わず声を上げました。だって、こんなに天気が良くて、お客さんもたくさん待っているのに、休むなんてもったいない!何かの冗談かと思いましたよ。
僕の頭上に「?」が浮かんでいるのを察したのか、彼はニヤリと笑って続けました。
「俺たちからすりゃ、今の風は8メーターは超えてる。陸(おか)にいると分からんかもしれんが、沖に出りゃ大違いだ。この風じゃ、お客さんを乗せて船は出せんよ」
風速8メートル? 僕の体感とプロの目
「ふ、風速8メートル!?」
その数字は、僕にはまったくピンときませんでした。だって、僕が感じているのは、髪が優しくなびく程度の風。体感でいえば、せいぜい2〜3メートルです。自転車をこいでも向かい風がツラいと感じるほどでもない。でも、目の前の海の男の言葉には、冗談のかけらもない、確信に満ちた響きがありました。
「ほら、あそこを見てみな」
彼が指さす沖の方に目をやると、確かに波のてっぺんが白く泡立っています。サーフィン用語で言う「うさぎが飛んでる」ってやつですね。でも、それだって湘南ではよく見る光景です。何がそんなに危険なんだろう?
僕の疑問を見透かしたように、彼は教えてくれました。
「風速8メートルってのはね、海の上じゃもう“嵐の始まり”みたいなもんだ。船は木の葉みたいに揺れるし、波しぶきでお客さんはびしょ濡れ。船に弱い人は一発でダウンさ。それに、一番危ないのは岩場に近づくとき。船が流されてぶつかったら大事故につながる。安全が一番だからな。俺たちには、絶対に無理しちゃいけないっていうルールがあるんだよ」
僕らが知らない「海の常識」
彼の言葉は、ハンマーで頭を殴られたような衝撃でした。僕が「レジャー」や「癒やし」の対象として見ていた海は、彼らにとっては人生を懸けた「仕事場」であり、常に敬意を払うべき偉大な存在だったんです。
僕にとっての「最高のそよ風」は、人の命を預かるプロにとっては「出航中止を判断すべき危険なシグナル」だった。この認識のギャップは、本当に衝撃的でした。
僕たちは、つい天気予報の「晴れ」マークや気温の数字だけで、その日を判断してしまいがちです。でも、海のプロは違いました。彼らは、僕らが見過ごしている無数の情報から、海の“本当の機嫌”を読み取っていたんです。
- 風の「湿り気」で、この後の天候の変化を読む。
- 波の「うねりの間隔」で、沖の状況を予測する。
- 空の「雲の流れ方」で、風が強まるか弱まるかを判断する。
それは、スマホのアプリでは決して教えてくれない、五感で自然と対話するスキル。長年の経験が体に染み込ませた、まさに「職人技」でした。
「休みさ」の一言に隠された、海へのリスペクト
「今日はお休み」という彼の言葉。その裏には、商売ができない悔しさよりも、「自然には逆らわない」という潔い覚悟と、海への深いリスペクトが感じられました。
無理をすれば、楽しいはずの船旅が悪夢に変わってしまうかもしれない。そのことを誰よりも知っているからこそ、彼らは勇気をもって「休む」という決断をする。僕らが湘南の海で安心して楽しめるのは、実はこうして海の怖さを知り尽くしたプロたちが、見えないところで安全の防波堤になってくれているからなんですね。
乗り場でがっかりした顔で帰っていく観光客たちを見ながら、僕はなんだか申し訳ないような、でも、とても大切なことを学んだような、不思議な気持ちになりました。
知人の漁師さんは、もう気持ちを切り替えたのか、明日使う網の手入れを始めていました。その姿から、自然と共に生きる人間の、謙虚さとたくましさの両方を感じた気がします。
あなたの次の“湘南時間”が、きっと変わる
江の島からの帰り道。僕の頬を撫でる風は、相変わらず優しく感じられました。でも、もうその風は、僕にとってただの「そよ風」ではありませんでした。
その優しさの奥に、ひとたび機嫌を損ねれば船をもひっくり返すほどの、パワフルな“海の呼吸”が隠れていることを知ってしまったから。
湘南の海を愛する皆さん。次にあなたがビーチを散歩するときは、ぜひ少しだけ立ち止まってみてください。そして、ただ景色を眺めるだけでなく、風の音に耳を澄まし、波の表情をじっくりと観察してみてください。
もしかしたら、あなたにも聞こえてくるかもしれません。海のプロたちが毎日聞いている、偉大なる自然の声が。
その声が聞こえたとき、あなたの湘南での時間は、きっと今までよりもずっと豊かで、味わい深いものになるはずです。